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「漢字制限」

 

 『法学ゼミナー』197号(19725月)

 

--中川善之助--

 

 

ちかごろ台湾から帰った人が、私に、土産だといって彼地の一円銀貨をくれた。折から遊びに来た親類の高校一年生にその話をしたら、欲しいというので与えることにした。するとその高校生は、うれしいそうに銀貨を眺めながら、「これどこの銀貨?」ときくのだった。「そこに書いてあるじゃないか」というと、「中華民国とは書いてあるが、大陸の方か台湾の方かわからない」というので、そんなはずはないのにと思って受取って見たら、中華民国の下に「臺灣銀行」とあった。「ここに書いてあるじゃないか」といって返えすと、「何だ、これが台湾」かという返事が向うから返ってきた。なるほどこの子たちは、漢字制限の教育をうけているから、臺の字も、灣の字も教わらなかったのだと哀れに思った。

すると今度は、「これいくらの銀貨?」ときかれた。これも無理はない、ちゃんと書かれてはいるが「壹圓」と彫られているので読めなかったのだろう。

私は、誰も彼も受ける、しかも期間の短かい義務教育の間に、もっとも沢山のむずかしい漢字を教えよという者ではない。義務教育だけの人は、台湾と書き、一円と書かなきゃ読めないというのでも仕方はあるまい。しかしそれ以上の高等教育に進んだらもっと教えて然るべきではあるまいか。今の子供は制限漢字だけが本当の字で、その他はウソ字だと思っている。そんな教育をしていると、たとえば仙台などには、戦前のもので仙臺と書いた文書などが沢山あるだろうが、誰も読めなくなってしまうだろう。漢字制限の趣旨を、小、中、高の先生たちに、もっと徹底さしてもらいたいものだといったら、言い過ぎだろうか。

 

 

 

 

這是日本的身分法大師中川善之助在1970年代寫的小品文。文中可以讀到一些未必和現在完全一致的表記,例如初學就已經知道的「難しい」被表為「むずかしい」,「たくさん」則又選用「沢山」的漢字寫法,但應該不致於妨礙閱讀。本文是從作者自身的生活經驗談出發,主題講到日本在義務教育規範了常用漢字的範圍,這其實本來不是種限制卻實際上造成了限制。有趣的是,這篇文章的開頭用的就是「台湾」=「臺灣」這個例子,在台灣人讀來應該頗感興味。

 

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